大晦日前日のこと

これは西暦2018年12月30日のこと。僕は今日が年末だなんて露ほども感じておらず、曜日さえも覚えていなかった。昼下がりに着いた新宿で、模索舎の怪しい店員と客にビビりながら1080円の買い物をし、来た道を戻ってタワーレコードへのエスカレーターを登った。タワレコの1F部分にあるねむきゅんの衣装を観て2F部分でidol and readを読んで3F部分へと上がった。

 

3F部分にはジャズやハウスの棚もあるが、目当ては昔からヘビーメタルコーナーしかない。中三の時、都庁近くのベネッセオフィスに行った帰りはいつもタワレコに寄って数時間帰れなくなっていた。Aldiousもヒスパニもangry frog rebirthもここで知った。その当時はHMコーナーの視聴機は少なかったが、この日は増えていた。Slipknotのall hope is goneの10周年記念editionのある視聴機の前に立つ。視聴機に入っているのは2枚目の過去のライブを音源化した盤だ。CDをひっくり返して曲順を確認。12.psychosocial、13.duality、14.people=shitの流れを確認し、トラック12になるようボタンをいじる。MCの煽り部分で音量を上げる。

 

ヘッドフォンを手で押さえたまま泣きそうだった。耳の中にいる2009年の観客と熱唱したかった。少しのつまらない理性が、迷惑な客になるのを防いでいた。

 

泣きそうになった理由なんて、いくらでも書ける。でも思いつく理由全て書き並べても、君は全然理解出来ないだろう。きっとその理由は僕の僕ですら覚えていない過去の記憶とそこに現れる精神の、ジェンガの少し窪んでいるツボのような所を押したからであって、そのような僕の脳内を把握しなければならないから。ここの読者が僕の過去やSlipknotについての文章、ジョーイについてある程度の知識があるとは思っていない。メタルで泣くなんて、と思う人も正しいし僕もジャズで泣きそうになったことが無い。誰もが正しくそして正しさなんて今は無価値だ。アイオワ州の、保守的で均一な田舎の街の生活の苦しみなんて知らないけれど、抽象的に同じ部分があったのだと思う。

 

それから下に戻り、イベントコーナの喧騒から逃れて、待ち合わせに1.5時間遅れてきた友人と合流した。吉祥寺を歩き、虚構の近況を話し、今が年末であることを確認して別れた。今も鳴っているドラムの音。これは西暦2018年12月30日のこと。平成が終わる大晦日前日のこと。