雪の降る都市

折角の雪だからと、散歩をした。1年前までは毎日雪道を歩く必要があり、それを思い返して少し懐かしい感覚だった。東京では雪でも傘が必要だ。

 

足元の雪は重かった。雪予報に期待していた歳頃にとっての雪は、こんな雪だったと思い出す。美しさは至らず、しかし固めやすい雪。

 

雪に埋もれた東京を想像しながら帰る。ビルの隙間に数メートルの雪が積もり、地下からは出れなくなり、手のつけられなくなった白い都市のこと。生活を手放し、沈黙の上澄みの吐息も雪が吸いこんで、風だけが鳴る都心のこと。そうして誰もが部屋にあった、随分と放置していた本に手を伸ばすような時間が訪れる。

 

こんな年齢になっても、非日常を望んでいる。もう寝る時間だけれど、カップ酒を温めた。こうして、何事にも向き合わないで生活をしている。