2020-01-01から1年間の記事一覧

街は

冬になると街路樹なんかがイルミネーションとして光っているのが嫌だ。果たして、あれを本当に綺麗だとかロマンティックだとか思っている人がどれだけいるというのだろう。イルミネーションが綺麗だという刷り込みがなければ、気味が悪いのでは? こんな文章…

鉄男

寝る前に、咳が出るようになった。少し咳き込むくらいだったのがヒューヒューと音がして息も苦しくなったので、何年も前にもらった喘息薬を使った。高一くらいに病院通いをやめてしまったから、それ以降ずっとこの薬を持っていたことになる。翌日の変な体調…

いずれ灰になる

重い体を引き起こして開けたカーテンの向こうは、曇り空だった。その灰色は僕の布団カバーの灰色と同じ色で、布団と雲に挟まれた僕も灰色に飲み込まれて温泉地の泥みたいにぬかるんだ存在になったようだった。雲の見えない布団の外に抜け出して、立ちくらみ…

青空

「生まれた所や皮膚や目の色でいったいこの僕の何がわかるというのだろう」と歌ってくれたバンドが好きだ。でもそんなことを言ったら、何を知れば僕のことがわかるというのだろう。このブログを全部読んでくれたって少しもわからないかもしれないし、そうな…

穴があったら

大学では、生き物の勉強をしている。研究と言えるほどのことはしていなくて、精々お勉強レベルだ。かと言って、生き物が好きという訳ではなく生物学が面白かったからこっちに来てみたというだけだ。 ただ学科同期は生き物好きが多いので、水族館や動物園に行…

箱男

最近、寝つきがいい。眠りもあまり浅くない。会いたい人がみんな出てくる、程よい夢を毎日みる。今は自宅の布団で目を閉じた瞬間が一番幸せかもしれない。 平日は毎日研究室に行く。必ずやらなければいけないことは一つもなくて、放任されている。研究テーマ…

さとり

先週土曜、山に登った。日高山脈にあるマイナーな山で、まずガイドブックやサイトには載っていない知名度だが、たまたま読んだ記事の急登具合や北海道には珍しい信仰の山というので行ってみたのだった。名前を剣山という。 夜の0時に友人を回収し、徹夜でレ…

6月

6月になった。薄紫色の季節、その印象は共感覚によるものではなくて、きっとカレンダーなどに6月のモチーフとして紫陽花が多用されていたことによる刷り込みのはず。6月はその淡い印象が好きだ。紫陽花のような紫は、非常に日本的な色という印象がある。 梅…

炭酸の夢

久しぶり、といっても一か月ぶりくらいに高校の友人とzoomを繋いだら、アル中ではないかと心配された。昨日会った大学の友人には「ワインをラッパ飲みしてる時以外で元気な時あるの?」と冗談交じりにからかわれる。心配されるほど飲酒量はないし、人の見な…

レモネード

目が疲れてきて、グラスの液体をぐいと飲み干す。買ってきたレモンを砂糖と一緒に瓶詰めして放置した、そうしてできた液体とスライスレモンをグラスにいれて水道水を注いだだけのレモネード。ぬるい酸味の後にどんよりとした甘みが残るだけの液体。 あまり出…

人間のクズ

睡眠から目覚めると怠い体に対して目には鋭い痛みがある。痛みといったのは過剰で、実際には強めの痒み程度なのだけど毎朝あるから目を開けるのも嫌で、起床しても薄目で過ごしている。原因は伸びすぎた前髪だとはっきりしているのだけど、駅の千円カットは…

マニキュア

ぼんやりと、壁を見つめる。自分の枠組みでしか世界を理解できないとしたら、即ちそれは自分の枠の中にしか世界が存在せず、自分の中を覗くことがすべてを理解することを意味していた。そんなことが頭をかすめるうちに、目前の白い壁は滲んで、ぼやけた等身…

ラストワルツ

別れた日から日記を書いていない。ちょうど2年くらい続いていたのだけど。書く気力がなくて溜めていたのが、次第に自分の書く日記に興味が無くなってしまった。自分の文章の癖みたいものがもうある程度分かっていて、予想出来るものを書いて何になるっていう…

2013年の宇多田ヒカル

中学三年生の夏、僕の楽しみなんて音楽と友人とのメールしかなかった。タワーレコードは天国だったし、塾の休み時間はヘッドホンをしてメールを打っていた。初めて夏期講習なるものにちゃんと参加して、ストレスで酷く憂鬱で、飯の味がしなくなって、つまん…

ジ・エンド

目覚めると、喉が痛かった。昨日は叫んだりしていないのだけど、と思っていたら目が覚めてきて煙草を吸いすぎたことを思い出した。僕の失恋を知った友人がくれた一箱を、あっという間に灰にしたのだった。近くの部屋から2人分の話し声と物音が続いていて、新…

「僕らが大人たちを追い越したのさ」

今年の桜は早くて、僕は4年振りに満開の桜を観ることができた。東京のいい所は適当に歩けば桜があることだ。「週末には桜が見頃だったり」という歌ばかり聴いたかいがあったのかもしれない。 帰省の度に1人ずつ会える友人が減っていく感覚を覚えながら酒を飲…

鍵ではないね

2日間、祖母の家でゴロゴロとしていただけで完全に気分が落ち込んでしまった。1人暮らしが完全に体に馴染んだことを思い知った。コロナが原因でデートが消えたこと、買った本が合わないこと、会いたかった友人にはどうやら会えない予定であること、既に買っ…

外は白い雪の夜

洗濯物を干すと、窓が少しずつ白く曇ってくる。外はますます雪が強くなる。薄暗い部屋で、僕は本から顔をあげて暖房をつける。引っ越してから1度も洗っていないカーテンを閉めて、また下を向いた。 毎日同じような生活をしている。毎日映画を観ることで、代…

気づけば空ばかり

煙草を吸いに、アパートの入口まで出た。部屋に臭いがつくのを嫌がって、4階分も降りなきゃいけない。今夜は曇っていて、僕は年中何も植わっていない細い花壇に腰掛けた。昨日今日と異様に暖かかったから、2月の夜にしては全然寒くなくて、ロードヒーティン…

切り札的三分間

思うところがあって、高校時代に好きだった曲をいくつかまとめて聴いた。今聴いても、当時の自分のセンスは悪くなかったと思う。 あれは確か、高二の秋だった。文化祭のライブが終わって少し暇のある時期に、部活の男3人でノコノコとマックに集まった。西荻…

空には黶

髪を切った。頬を撫でていた前髪は無くなり、ヘッドホンがよくフィットするようになった。視界が広くなって、空の広さに驚いた。今日の空は僕の視力でも分かるくらい澄んでいて、青から藍色に変わるくらいの場所に、眠っている時の目みたいな月とそのホクロ…

例えばあの娘は

田渕ひさ子は僕の約1.5m前にいて、向井秀徳は僕の左斜め約2m前にいた。SEが流れた瞬間から続いていた観客の叫び声は向井の「お待たせしました、お待たせしすぎたかもしれません……さっぽろシティ!!」の挨拶で絶叫に変わった。因みに向井はこの台詞を終演ま…

もう21

東京から戻ってきた札幌は史上最低くらいに雪が少なくて、僕のいない大晦日には雨が降ったらしい。北海道を体感したことが無い人間はこの異常気象がピンとこないかもしれないが、そんなことは全く関係なく僕は忙しかった。4日連続で飯はすべて学食か購買か学…