蜻蛉

会社の階段にトンボの死骸が落ちていた。羽が透明だから床に馴染んでいて、いつからあるのかは分からなかった(そして今はトンボの季節ではない)。しばらく見つめてから、そのまま帰った。

 

カメラをすっかり使わなくなった。わざわざカメラを使って、時間の流れに水を差そうと思うことが減ったのだ。もう手に入らないものへの執着が欠けてしまったとも言える。 

 

毎晩帰宅するたびに、スイッチが切れる音がする。他人と出会う可能性がある時に自動で働いてしまうレーダーの。ようやく安心できる。

 

久しぶりに手紙を書いた。毎月のように手紙を書いていた季節が自分にもあって、その時に備えていた便箋と葉書が束で残っている。会うだけが関係ではない、と思いたい。