コート

部屋は寒かった。今朝まで友人がいたからかもしれない。ブランケットを出して、膝に掛けた。寒くて予定のない昼間はとても寂しい。コートを出して、被った。出掛けることにした。コートを被って。

 

今はもう帰ってきたところ。寒いから、もう布団の中だ。入ったばかりの布団は冷えきっていて、毎回ここで体温が下がる。寒いから丸まって、ズボンの裾から手を入れて足をさする。昨夜片足だけ毛を剃った脛。剃った脛は風呂上がりのバスタオルが密着させられて気持ちがいい。毛があるとこうはいかない。脱毛してしまいたいが、サロンなぞに行くのも億劫だ。

 

脛をさすると、骨の形がよくわかる。この太さで体重を支えているのだと思い、ふくらはぎと骨の間に指を入れるようにしてなぞる。僕は骨が太いから、筋肉も油も少なくていいと思っている。痩せていると、骨の構造美に嬉しくなる。山肌にへばりついた採石場や、崩れかけたコンクリ廃墟などを見ると、その骨組みに自分の体を連続する。毛も脂肪も、余計なものだと思う。筋肉も使うだけでいい。昨今はみんな使いもしない筋肉も付けたがることに辟易している。

 

自分の体を一度精密検査してみたい。機械のメンテナンスのように自分の不具合を知っておきたい。自分の一部がメカになったら面白いので、どの部分を改造するか考える。手足の方がメカメカしくていいな、とアバラ骨を叩く場所で音が変わる遊びをしながら考える。

 

それくらい考えると、だいたい布団が温まる。温まると、夕飯の案がないことを思い出す。頭が少し痛いから、暫くは布団にいる。脛を摩り飽きて立ち上がる。そうしてコートを被る。出撃体制で、僕は赤いドアから出かけていく。