散骨

スーパーでそうめんを買って帰る自転車をこぎながら、いつも車に追突された時のことを考えてしまう。夜のアスファルトに投げ出される肩掛けカバンと自分のからだ、そして袋のなかで粉々になったそうめんたち。衝突後の自分ではなくて一瞬で食べられなくなったそうめんたちばかり眺めてしまう。

 

夜が静まったら、パラパラに折れてしまった白いそうめんたちを部屋の窓から風にのせてあげたくなる。空から散骨してもらう富豪のように、そうめんたちも砂の一粒や土のひとかけに紛れ込んで誰かの吸気に入るかもしれない。暗闇に白は映えるから、窓から放たれたらすぐに逃げなければいけない。

 

追突されることなく帰宅した自分は、毎日のようにそうめんを茹でている。そうめんとアイスは無理をしなくても食べられるから。本当はいつも無理していたいのにそうなれないから。ほどかれたそうめんの帯は誰かを起こすのに使われることなく、指先から離れて生ごみの袋へ落とされている。