副生活

いつからか、煙草を吸う真似をするようになっていた。小学生の時にはもうしていたと思う。家族は吸わないし、当然自分も吸ったことなんてなかったけれど、なぜかそうすると落ち着いた。大きく深呼吸をすると逆に緊張してしまうから、リラックスしたい時にこっそりとやっていた。人差し指と中指を軽く閉じて、唇につけて、吐く。

 

二十歳になって、ようやく実物の煙草を買った。はじめは息を吸いながらじゃないと火がつかないなんて知らなかった。まずくて苦しいものだと思っていたのに、実際は吸う真似をしていた時に想像していた味とそっくりだった。あまりにもそっくりだった。

 

眠れない夜は(ほとんど毎晩だが)、こめかみに拳銃を向ける。架空の拳銃しかないのでもちろん真似だけだ。そんな夜はたいてい頭痛がして、ここを狙えというようにこめかみの下が痛む。そこに銃口を向けて、撃鉄を上げ下げする。そうしていると少し安らぐ。意識を消す助けになる。一生、銃が手に入らないことを願う。暴力的な映画の見過ぎだとも思う。

 

三日前の夢では、拳銃を握った僕は追ってくる猟銃から逃げていた。左腕に被弾して、生涯力こぶなんてできそうになかった。血を流しながら僕の後ろ姿は枯草の平原に消えていった。起きたらまだ夜で、腫れた左腕を抑えながら錠剤を飲んだ。