境界線

風呂桶の端に左脛をぶつけた。いまだに自分の輪郭がわからないでいる。輪郭というのは自己と不安の境界線のことだ。

 

太宰の全集を買った。誕生日の一週間後のことだ。太宰で救われる、ギリギリの歳であるように思われた。学生生活の道筋を太宰に見出してから、ずいぶんと年が経っていた。

 

床に積んだ全13冊は美しいとは言いがたく、実に不格好であった。そのうえ読むにはわざわざ箱から出さねばならぬ。しかしそれは古本特有の“はにかみ”のようなものであって、好ましく感じた。

 

6年間使わなかったクーラーに、日々助けられている。自分の感覚を、甘やかしている。クーラーにまみれていると、大きなキャンディを舐め尽くした舌のようになってくる。

 

本を読まなくてもよい日が多くある。雑音ばかりに気を引かれている。それでも本は増えている。手に馴染む本ばかり買っている。左脛には、シャワーがまだ滲みる。