拝啓

拝啓

 

         様

札幌では着実に積雪が厚くなり、除雪で出来た雪山からは人が飛び出てきます。雑念は全て雪の下へと吸い込まれていきます。テクノロジーで守られた部屋でしか落ち着けない私達は、第三次世界大戦時代を先取りしているとも考えられます。不意に過去の技術がまだ働いているのかと不安になったので、便箋をひとつ送ってみることにします。


僕は食事と酒と大学への不満しか話せないようなつまらない人間になりつつあります。もっと話さなければならないことは幾らでもあるはずなのに。僕の脳味噌は狡猾で、忘れるという行為を頻繁に用いるのです。考えるという行為もコストパフォーマンスが悪いと判断されてしまいました。そちらは、どうですか。


元気か?ときかれた時に「いつと比べて?」と返す自分は僕を見放しつつあります。もう進行形ではなく完了形かも知れません。僕が辛うじて息が出来るのは深夜にしか残されていないのです。世間が皆家にすっこんで、僕の住むスペースを空けてくれる時間帯です。昼間にもそれを作れるのが大人というものです。しかし作った時にはそのスペースで息をする自己が消えていることが多いのも、また事実ではないかと思われます。


人は時間に従って変わります。時間軸を失った狂人が、いつまでも同じ行動をすることからこれは示されます。変わることに耐えられず、岩と話すようになった友人も居ます。僕も人ですから変わっていきます。どうやら自分が望んでいない方向に変わっていくであろうことも、学習能力によりぼんやりと予想ができています。学習から導かれる予想を覆すには、外れ値の殴り込みを期待するしかありません。その外れ値は時にヒーローであり天災であり救済でもあります。名前はここでは些細な問題です。それが何であるか、僕だけが知っていればいいのですから。わかるかな、わかんねぇだろうな。


暫く会わないと、君の概念が弱まります。僕にとっての別宇宙である君との交流は、現世を維持するために必要であると思われます。プログラミングされた結果と奇跡とを混同するほど無能ではないと評価しています。また、別の星で会いましょう。君の宇宙項は誰かのためなどという、下賎な理由を持たずただ存在しているのです。ゆめゆめ、お忘れなきよう。


この手紙がすべて雪に吸われてしまう前に、どうか1文字でも届きますように。

 

敬具 僕より