転がる岩、僕には何が

観た映画の本数や、部屋にある本の量や、音楽をずっと聴いていることに対して「すごいね」という反応をされると、ひどく後ろめたさを感じる。それは自分がいかに現実から逃げているかという証拠だから。錠剤を一度にたくさん飲めるという自慢は、薬を必要とせず健康な人の前ではむなしいように。

 

引越しにあたって、本をなるべく減らした。車を借りなければいけない位の量を古本屋に運んだ。垢を落とすつもりで体を引っ掻いたら、肉にまで爪をたててしまった痛みが全身に。それでも、引越し荷物の大半は本になってしまった。

 

満月の次の日夜に、新居へと滑り込んだ。入居して最初にやったのはギターの弦交換。ベグを緩めていくと、地盤がぐらぐらになって高いビルでも指で引っこ抜けそうな気持ちになる。世界は歪んで、ギターと2人きりになる。

 

荷物が運び込まれて、本棚を組んだ。それは鏡であり、祭壇であり、肉親であった。想定より早く組み上がったそれを、床に座って眺めている。今日もパティ・スミスと志磨遼平が僕を見下ろしている。視界の端には、既に本棚へ入り切らなかった本たちが恨めしそうに僕を見ている。見つめられながら、音楽を流し、日記に読めない文字を殴った。