初雪

今日は雪だった。1日中、吹雪いていた。初雪ではないけれど(いつが初めてかなんて、きっと誰も覚えていない)。昨夜、僕の知らないうちに降り始めて、随分と積もった。さっき家の前を除雪車が走っていったところだ。これからほぼ毎日聞くであろう機械音を出しながら。

 

雪が積もると、周りがやたらと静かになる。部屋にいれば暖房と冷蔵庫の動く音とたまに通る除雪車の響きしか耳に入らない。耳鳴りやラップ音が聞こえたほうが安心するくらいだ。一人暮らしなので他人の生活音もない。ぼんやりと椅子に座っていると気が滅入ってくる。無音の空間に、自分の中身が吸い出されるような気がしてくる。自意識が、一層過敏になる。

 

風がない日、ゆっくりと落ちてくる大きな雪を無音の部屋から眺めると、死んでしまった世界のように綺麗だ。味わいたい人は二重窓の隙間に小さなミズクラゲをたくさん放つといい。長くは持たないだろうけど。外に出ても人は少なく、空気の擦れる音ばかりが聴こえる。綺麗だ、と毎日思う。でも綺麗な中で暮らしたいとは思わない。

 

冬の空気は脳を冷却して、考えなくてもいいことばかりを演算する。そのせいで、自分が面白くなくなっていっている現実にも辿り着く。ここ1週間、妙な夢ばかりを見る。休んだら死んでしまうと錯覚しているのだろう。休まなくても死んでゆくのにね。今朝はプロレスラーにボコボコにされて、フローリングに額がついた時に目覚めた。昨朝は真っ白な部屋の真っ白なベッドに横たわっていて、知人が1人ぼんやりと立っていた。

 

現実では、課題が終わらなかったら深夜に雪合戦をしようと言われた。実家暮らしの人間は夜かぁ、とぼやいた。明日を捨てられない大学生は、きっと実行に移さない。足元に集中している人達は、僕が新雪に大の字で埋もれていても気づかない。

 

冬の思考は内向きにしか走らない。僕の外界である課題レポート予習自習には向かわないのである。向かわせなければ死んでしまう、という矛盾を抱えながら今日も頭から布団を被る。