メダカ

祖母の家の玄関に、水槽が出来ていた。ペットはボケ防止に良いだろうと従兄弟が持ってきたらしいが、祖母は全く興味がないようだった。それならもっと張り合いのあるペットにすべきだろうと思う。だが、祖母は僕同様に鳥や猫などは嫌いなようだった。

 

帰り際に水槽を覗いたらメダカが1匹浮いていた。それを取り出して、庭に捨ててから帰った。埋めたりなどはしなかった。メダカを持つと、小学生の時を思い出す。

 

何年生の時だったか忘れたが、飼育係をしていた。教室の後ろにある水槽の管理が役目の係だ。メダカが大量にいたが、毎日ポコポコと死んだ。死んでいることに気付いた生徒が、水槽の隣にあるビニール袋に死体を放り込むのが暗黙の了解になっていた。死体を放置すると水が悪くなるからだ。

 

ただ放り込んでいくだけだから、すぐに悪臭がした。その袋をどうにかするのは飼育係の仕事のように思われた。しかし、死体を他のゴミと同じようにゴミ箱に突っ込むことには抵抗があった。だから死体が随分溜まった頃に、僕はその袋を持ち帰った。そして通学路にある団地の敷地に埋めた。木の影に、袋ごと埋めた。袋がなくなったことに、他の生徒は気に留めていなかったように記憶している。

 

この先、メダカを見る度にその事をきっと思い出す。そういったものが生活に点在している。例えば、映画の半券を見る度に容疑者Xの献身を思い出す。僕は半券をしばらく取っておく人間だから、きっと容疑者になったら疑われるだろう。そんなことで疑われるなんて、それまでちっとも知らなかった。きっと自分の部屋には自分の知らない疑わしいものがもっとあるだろう。

 

あるものを見れば僕を思い出せるよう、人に会うたびに伏線を埋めている。でも、あなたに埋めたものを、実は自分も把握していない。