研究

外から、ドン、ドンと音がする。はじめは雷かと思った。それか大砲の音かと。しかし、にしては頻度が高いし、祭りの季節でもない。布団を叩くには、叩きすぎだ。遠くの部屋で壁でも叩いているのだろう、なぜ窓のほうから聞こえるかは分からないが、そう思うことにした。自分の幻聴だとしても何も変わらないのだ。乾咳をしながら、部屋の布団に座っている。

 

大学では、ヘッドホンをしている。共同の学生室に響く他ラボの無駄話、教授の独り言、廊下の足音、恒温機の唸る音、すべてまだるい。精一杯の拒絶に手を伸ばす。自分を些末なストレスから守るために音楽を聴いていて、音楽に申し訳ないと思っている。耳もそれに付き合わされているから疲れてしまって、夜は音楽のない贅沢という幻覚が現れたりする。

 

実験室は電波が悪い。Spotifyで音楽を流していても、しばらくすると止まってしまう。SNSの通知は来るけれど、こちらから送信することは出来ない。不完全な拒絶。この中途半端さが社会への未練となって、自分を引っ掻いてくる。緩慢に手を動かし続ける、やりたくてやったことなんてその部屋では1度もない。

 

読んでいた文庫の終盤になってから、最後の頁に小さな栞が挟まっていたことに気付いた。そうやって見逃して、まだ気づいていない栞が、生活にはわんさかあるのだろう。気づいていないものの中には栞程度ではないものも多いのだろう。そうした予感が、暗くて近い未来と重なって、どんどんと濃くなっている。濃くなった色は不幸というのかもしれない。