戦争

戦争をしている夢を見た。田舎町で、突撃していったら自分だけはぐれてしまった。ひとりぼっちだけれど、どこからか撃たれるんじゃないかと緊張し続けていた。物陰を見つけて、長い銃身に金属の棒を突っ込んで掃除した。教科書で見た日本兵のような銃を持っていた。棒は、なぜだかそこに転がっていた。

 

田舎の細い道は漁村のようだった。家と家の間に小さな砂浜があった。その砂浜に、椅子を並べて数人が海を向いていた。警戒しながら近づいていったら、その人たちは小学校で使うような椅子に、後ろ手を縛られていた。銃を構えて近づいた。「綺麗じゃないか」一番近い場所にいたおじさんがそう言った。虚ろな目で、海だけを向いていた。椅子の人たちに背を向けないようにして遠ざかり、眺めた海は鉛色だった。

 

また歩いた。いつの間にか道は、磯の、岩場になっていた。それでも歩くと、家が見えた。それは昔、家族と住んでいた平屋だった。当時は家の前に道があって、その前に1軒くらい家があって、その前に砂浜があったのに、今は縁側のすぐ前にまで海になっていた。縁側には母が立っていた。「随分変わったんだね」「いいじゃない、綺麗だもの」もうすぐ縁側の下も海になるのだろう。近くの磯にはコンクリートの道があり、そこを母と歩いた。海は洒落たインクのような藍色だった。銃はいつの間にかなくなっていた。道には何人か、観光に来たような人達が歩いていた。自分も靴を捨てて、砂利の浅瀬を歩いた。タイドプールには、灰色の軍服の人が死んでいた。打ち上がった小さなクジラにも似ていた。

 

アラームで起きて、冷えきったスマホに手を伸ばした。動かなければ、と他人事のような自分は言っていたが、体はあまりに重かった。昨晩干した洗濯物が、室内の空気をより重くしていた。起きねばならぬくらいなら、いっそ死んでしまいたいと思った。海と布団の狭間で、1時間ほど動けなかった。