青を教えて

最近、この世界で生きていることに違和感がある。昔も感じていたけれど、それとは違う違和感だ。昔はこの世界に居場所が無いような違和感だった。今は水の中を歩いている時と同じような違和感だ。

 

夢の中から帰って来れないのだ。朝、目を覚ますと、現実よりも夢の記憶のほうが強い。自分は誰だっけ、ここにいていいのか?という不安で1日が始まる。10分くらいかけて、この世界の自分のデータを思い出す。夢の中でのことを思い出す時と、1人で過ごした日のことを思い出す時は記憶が同じ色をしている。どんな色かは説明できないけど。君だって色盲の人に青を教えてあげることはできないだろう。誰かといた記憶は別の色をしていて、こちらはハッキリとした、厚化粧のようなツヤを持っている。

 

一人暮らしをするまでは、目覚めた後に夢の中を漂うことはなかった。現実には夢から引きずり出す力があった。家族は全員自分よりも早起きだったし、自分は目覚めたらすぐに朝食を食べないといけない時間に起きていたからだ。今は起きた世界が現実かどうか判断する尺度がない。

 

数ヶ月前に、「寝れないなぁ」と呻きながら布団で寝返りを繰り返す夢を見た時はさすがに冷や汗をかいた。夢の中で不眠なのだったら日中眠くてもどうしようもないではないか。夢の中の負債をこの世界に投げるのは是非とも止めて頂きたい。

 

ただ、現実と夢には違いがある。現実では目覚めた記憶があるが、夢の中では夢の世界に入ったという記憶はない。夢の中の自分は感覚を持っているが、思想は持っていない。夢の中の自分は、今現実の自分に何も与えないのだ。現実世界の自分は夢世界でのことを勝手に考えて、勝手に発想を得るだけである。夢の中の自分は哲学的ゾンビとして今日も生活をするのだ。

 

窓の外を見たら、向かいのマンション前に人が2人立っていた。片方の背は小さくて、子供のようだった。あんまりにも動かないのでよく見ると2人の影は道路に流れた水跡だった。きっと一足先に夢の中へ潜ったのだろう。この世界にまた帰って来れますように。