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某月某日、九州某所。より詳しく書けば、3月22日、長崎県長崎駅前に降り立った。それは20~28日にかけての九州縦断旅行の経由地であり、翌日には軍艦島へ行くことになっていた。

 

路面電車に揺られ(路面電車というものは非常に揺れる)、大浦天主堂前の坂を登る。旅行に同行している友人(以下、同行人と表記)は大浦天主堂グラバー園を見に行ったが、自分は中学生(小学生だったかもしれない)の時に家族とバスツアーで来たことがあるので今回は別行動を選んだ。別行動中の自分は、特にどこに行くでもなく街中を歩き回った。

 

長崎中心部というのは湾のすぐ近くに山があるため、非常に坂道が多い。そして自分は坂道が好きである。いつから好きだったのかは思い出せないが、はっきり好きだと言えるようになったのは「タモリのTOKYO坂道入門学」を読んでからだと思う。それまではわざわざ好きと言うものではないと思っていた。好きと意識するきっかけはありがたかったが、自分が最初に坂好きを名乗りたかった気もする。

 

長崎は石畳や石階段の急な坂道が多く、坂の横には明治期の建築や蔦の絡まった塀が並び、良い坂が多かった。オランダ坂といった有名な坂から、名前のついていない廃墟脇の階段坂まで歩いた坂はどこも魅力があった。

 

観光を終えた同行人と合流して、街中を歩き回っていたと伝えると怪訝な顔をされた。同行人はきっちり予定を立てて観光地を回りたいというタイプである。対して自分は緩く予定を立てて街中を歩き回って良さげな場所を見つけるのが好きなタイプである。価値観の違いなのでお互い合わせるつもりもないが、お互い頑固であるので後々苦労した。

 

自分のようにふらふらするのが好きな人間には、突然現れる坂道は非常に魅力的に映るのではないだろうか。坂道を労力の損得でしか見れない人間よりは、散歩好きが風流に思われる理由である。