2013年の宇多田ヒカル

中学三年生の夏、僕の楽しみなんて音楽と友人とのメールしかなかった。タワーレコードは天国だったし、塾の休み時間はヘッドホンをしてメールを打っていた。初めて夏期講習なるものにちゃんと参加して、ストレスで酷く憂鬱で、飯の味がしなくなって、つまんない詩を書いていて、一時間以上風呂に入って、8キロ痩せた、そんな時期だった。

 

それまでは21~22時には寝ていたのが、勉強で日付を越える時間に寝るようになった。家族は全員早寝だから23時には寝静まっていた。寝る直前に時々、部屋の電気を消して畳に寝そべって音楽を聴くのが好きだった。網戸越しの生ぬるい風と、小さな家電のランプや街灯で真っ暗にはならない部屋と、畳の感触が好きだった。

 

聴いていたのは宇多田ヒカルのFirst Loveや東京事変のタイムカプセルやsupercellの君知らだった。塾でずっと聴いていたXJAPANなどは寝る前にはあまりしっくりこなかった。1曲だけで満足した。あの瞬間、世界の誰よりもFirst Loveという曲を体感している気がした。世界の誰よりも、という感情だけど世界の誰にも関係ない感情だった。

 

きっと世界で一番だなんて言えるものはないけれど、あっても言う必要はないけれど、世界なんて関係のない自分だけの感情は我儘を言って守りたいと思う。僕は今でも、First Loveを聴くと畳と夜の混じった匂いがする。